定年女子の日々・是好日

「定年」にはなりましたが、非常勤で働く「日」「日」です。

花組さんの『舞姫』


仕事柄二年に一度くらい
読んできた森鷗外の作品ですが、
主題は「近代的な自我の覚醒と挫折」
a ma ga ta伯
YをつけたらYamagata
当時の人ならすぐにわかる山形有朋を
意図的に登場させた政治的な作品。
読んでいる途中から、必ず、女子高生が豊太郎に怒り出す。
宝塚には向かない作品だと思っていましたが、
いい作品に仕上がっていました。
登場人物も
豊太郎      聖乃あすか
相沢謙吉     帆純まひろ
画家の人(原作にはありませんが)侑輝大弥
花組の瑞々しい若手の熱演に 
天方伯爵     一樹千尋
豊太郎の母    美風舞良
ベテランが押えた重厚な作品になりました。


小説としては多々破綻があると明治時代から言われていますが、
あの、文語文は何度読んでも名文。


もしこの手にすがらずば、本国をも失ひ、
名誉を引きかへさむ道をも絶ち、
身はこの広漠たる欧州大都の人の海に葬られむかと思ふ念、
心頭を衝いて起これり。
ああ、なんらの徳操なき心ぞ、「承りはべり。」と答へたるは。
『現代語訳 舞姫 井上靖 訳』p158


この「本国」とエリスへの愛の間での葛藤がよく演じられていたと思います。


「舞姫」の時代。
明治22年大日本帝国憲法発布
日清、日露。第一次世界大戦へとなだれ込んでゆく時代。


ヨーロッパはハプスブルグ帝国崩壊へ
「うたかたの恋」皇太子ルドルフの心中事件
   ↓
ルードヴィッヒ二世の不可解な死
(鷗外も「舞姫」とともにドイツ三部作といわれる
「うたかたの記」で触れています。)
   ↓
エリザベート暗殺
   ↓
サラエボ事件へと
激動の時代。


『舞姫』を読むたびに、思ってしまう。
愛という概念がまだ未成熟な明治初めという時代だったにしても
「個人」より「国家(公)」を優先する豊太郎の選択。
この国の在り方は、明治から
現在まで続いているのではないか。と。