定年女子の日々・是好日

「定年」にはなりましたが、非常勤で働く「日」「日」です。

『灯台からの響き』宮本輝

主人公は62歳、中華蕎麦屋を営む、読書家の男性。
妻がクモ膜下出血で急逝して以来、店も閉めたまま引きこもり。


『神の歴史』という本からこぼれ落ちた数十年前の
大学生から妻への一枚のはがき。
灯台めぐりの一文。
そのはがきに導かれるように、
灯台に導かれるように
妻の過去への旅が始まる。


たいした秘密じゃないけれど、人には知られたくないことが、
どの家にもあるもんよって言ったんだ。p210


たどりついた「過去」=出来事は、
不倫とか、殺人とか
サスペンス小説のような悲惨なものでも
なんでもなく、妻の人柄を知る
こころあたたまるものだった。


父、母、伴侶、娘、息子、数少ない友人。
俺はそれらひとりひとりを遠目でしか見てこなかったのかもしれない。
・・・いや、近すぎて本当の姿が見えないということもある。p229


日々、一番近くで暮らしても相手の全てを知っているわけではない。
何年も、一緒に暮らすから、言わないこと、
知らない方がいいこともある。
それでも、供に生きることを選び続けてきたのだ。


動かず、語らず、感情を表さず、
海を行く人々の生死を見つめてきた灯台が、
その時の康平には、何者にも動じない、
一人の人間そのものに見えていた。p335


その灯台の姿に亡くなった妻の生き方そのものが重なる。


威風堂々と生きたいな。
焦ったって、怖がったって、逃げたって、
悩みが解決するわけじゃないんだからな。
こつこつと、ひとつひとつ、焦らず、怯えず、
難問を解決していく。俺はそういう人間になるために、
いまから努力するよp336


たどりついた、尻屋埼灯台を見つめながらの感慨に
いたく、共感した。


そして、康平はまた、店を開ける。